翻訳コラム
2018.10.22
機械翻訳と自動翻訳の違い|人力翻訳の使い分けやメリット・デメリット
「機械翻訳」と「自動翻訳」、どちらも耳にする言葉ですが、その違いを明確に理解していますか?
AI技術の進化により、機械翻訳や自動翻訳は効率的かつ高精度な翻訳が可能になっていますが、感情やニュアンスを伝えるには限界があります。一方で、人力翻訳は高度な表現力と理解力を駆使し、より自然で「伝わる」翻訳を実現します。
本記事では、機械翻訳と自動翻訳の違いを詳しく解説し、人力翻訳との使い分けや各メリット・デメリットを比較します。翻訳の選択に迷った時のポイントを知りたい方は必見です。
Index
機械翻訳とは
「機械翻訳」とは、文字通り機械が自動的に行う翻訳のことです。英語ではmachine translationと呼ばれ、翻訳業界では「MT」と略されることがよくあります。これに対して、従来の人が行う翻訳は「人手翻訳」や「人力翻訳」とも呼ばれるようになっています。
自動翻訳との違い
「自動翻訳」という言葉は、翻訳業務における繰り返しの作業を自動で行うプロセスを指す時に使われます。このプロセスには、翻訳作業そのものだけでなく、ファイルの処理や他のシステムとの連携など、全体の作業の自動化も含まれています。
その中で「機械翻訳」は、自動翻訳の重要な一部として位置づけられています。実際の業務では、翻訳支援ツールや翻訳管理システムを利用して、この自動化が進められています。
また、日本では特に音声を使ったリアルタイム翻訳を「自動翻訳」と呼ぶこともあります。音声をテキストに変換し翻訳してから再び音声に戻す過程でも、機械翻訳が活用されており、自動翻訳において機械翻訳は重要な役割を果たしています。
つまり、機械翻訳は自動翻訳を実現するために欠かせない要素と言えるでしょう。
機械翻訳の歴史
機械翻訳は、1950年代のコンピューターの発展と共に始まりました。初めは、人間が定めたルールに従って翻訳する「ルールベース機械翻訳」でしたが、当時のコンピューターではその複雑さに対応できず限界がありました。
その後、データ量の増加を活かした「統計的機械翻訳」が登場し、大量のデータを基にして翻訳を行うようになりました。
そして、インターネットの普及に伴って、さらに多くの言語データが利用可能となり、翻訳精度も向上しました。
2016年には「ニューラル機械翻訳」が登場し、AIを使った自然な翻訳が可能になりました。現在は、この技術が主流となり、機械が自分で学習しながら翻訳を行う時代になっています。
機械翻訳のアプローチ3種の仕組み
「機械翻訳」というのは文字通りコンピューターによって「ある言語」を別の言語にオートマチックに翻訳をする方法です。自動翻訳はその基本となるシステムによって大きく3つに分類されます。
「ルールベース機械翻訳」と「統計的機械翻訳」、そして「ニューラル機械翻訳」です。それぞれのアプローチの特徴に触れておきましょう。
ルールベース機械翻訳(RBMT)
ルールベース機械翻訳はその名が示すように、ルール=文法に基づきつつ、蓄積された過去の翻訳文や単語、用例のデータを利用して翻訳結果を導き出すシステムです。プロセスとしては、まず文法的に原文の構造や意味を解析し、訳文の言語に変換します。
辞書情報を参照しつつ、足りない部分を補足するという手順で作業が進みます。古くから存在する機械翻訳のシステムです。デメリットとしては、文法に則った構造になっていない文章は、正確な翻訳が期待できません。
統計的機械翻訳(SMT)
統計的機械翻訳は膨大に蓄積された対訳情報をもとに、統計的なモデルを学習することにより、妥当な翻訳を行うシステムです。前出のルールベース機械翻訳よりもクオリティにおいては高くなります。技術や医療、金融といった専門分野に特化したデータを用意できれば、現時点でも高品質な翻訳を生成できると考えられています。
しかし、原文の文法と訳する先の言語の文法構造が違う場合には、クオリティが下がってしまうというデメリットがあります。
ニューラル機械翻訳(NMT)
ニューラル機械翻訳は、人が脳に記憶するシステムを機械に応用したといわれる、脳神経細胞に似た「ニューラルネットワーク」を利用します。3種類の方法の中では、最も細かいニュアンスまで反映できる、自然で高い精度の翻訳が可能です。
他の2種類の機械翻訳では難しいとされていた「文書単位」で候補を見つけることができます。それだけでなく、画像のキャプションの翻訳も自動でできるなどの利点が多く見られます。今後の主流になるものと考えられています。
機械翻訳のメリット
機械翻訳のメリットは以下となります。
・迅速に翻訳
処理スピードが非常に速く、短時間で大量の文章を翻訳できるため、即座に結果を得ることが可能です。
・低コストかつ効率化
低コストで人手翻訳に比べて経済的であり、効率性が高く、大量の文書や繰り返し作業を自動化することで全体のワークフローを効率化できます。
・単純作業から解放
翻訳者は機械翻訳により単純作業から解放され、より高度なタスクに集中できるようになります。
機械翻訳が得意な分野
機械翻訳は医療、法律、論文、マニュアルなどの専門的な分野では、機械翻訳がとても役立ちます。機械翻訳は用語の統一性を保ちやすく、決まったルールや定型文が多い文書に向いています。最近では、機械翻訳の精度をさらに高める工夫が進められており、ますます効果的になっています。
ただし、柔軟な解釈が必要な文脈やイレギュラーな内容の場合には、機械翻訳だけでは満足のいく結果が得られないこともあります。それでも、上手に使えば人手翻訳よりも効率的に翻訳文を作成することができる場合も多いです。
なお、翻訳会社では、機械翻訳を使用した後、必ず人がチェックして最終的な品質を確認します。現段階では、機械翻訳だけでお客様に納品するにはまだ不十分なことが多いためです。
機械翻訳のデメリット
機械翻訳のデメリットは以下となります。
・品質が不安定
品質の不安定さがあり、細かいニュアンスや文化的背景を反映しにくく、誤訳のリスクが存在します。
・ブラックボックス化が発生
特にニューラル翻訳においては、ブラックボックス化の問題があり、結果が予測できず、誤訳や意味の取り違えが発生する可能性があります。
・責任の所在が曖昧
機械翻訳の結果に誤りがあった場合の責任の所在が曖昧になることもあります。
機械翻訳が苦手な分野
機械翻訳が苦手とする分野には、小説やエッセイ、脚本、映像翻訳、字幕などの文芸関連の翻訳があります。これらの翻訳は、文脈や微妙なニュアンスをしっかり理解する力が求められますので、機械翻訳ではこのような複雑な要素をうまく扱うのが難しいです。
また、感情や文化的な背景を反映した表現力も必要ですので、機械翻訳だけでは適切な翻訳を提供するのが難しいです。そのため、こうした作業にはプロの翻訳者の手が必要です。
機械翻訳による英語等翻訳の精度は?
機械翻訳はニューラルネットワークの登場によって、格段に精度が向上しました。そしてパソコンやスマホ、タブレットが普及し、オンラインで使える翻訳アプリも数多く登場し、今や誰もが手軽に翻訳作業をすることが可能になりました。
とはいえ、翻訳する精度にばらつきがあったり、特殊な単語は適切に翻訳できなかったりという不完全な部分があるのは否めません。
そもそも、機械翻訳ができるのは直訳だけです。ローカライズと呼ばれるその国の文化や習慣に対応することはできていません。
機械翻訳と人力翻訳のどちらを選ぶべき?
人力翻訳は文字通り、人の力でなされる翻訳のことです。データにもとづいて対訳を作成するのとは違って、どんな文章であっても訳すことが可能です。微妙なニュアンスの適切な表現や、想定される読み手に向けた理解しやすい言葉の選択なども可能となります。
機械翻訳と人力翻訳の選択を考える際には、それぞれの利点と欠点を踏まえる必要があります。まず、機械翻訳の精度にはいくつかの要因が影響を与えます。
言語ペア: 例えば、スペイン語とフランス語のように文法が似ている言語同士では翻訳が容易ですが、英語と日本語のように文法構造が大きく異なる言語間では、正確な翻訳が難しくなる場合があります。
翻訳対象分野: 技術文書や法律文書などは構造が明確なため、機械翻訳でも高い精度が期待できることがあります。
一方、マーケティング文書のように背景情報や文脈が重要な内容は、人手による翻訳がより良い結果を生む傾向があります。
特に、顧客との信頼関係を築くためのコミュニケーションでは、人間的な要素が重要であり、人力翻訳が望ましいでしょう。
また、表現力や語彙が豊富な文芸作品やエンターテインメント分野でも、人間の感性が必要なため、人力翻訳が適しています。
事前編集の有無: 原文が整理され、機械翻訳が苦手とする部分が排除されている場合、翻訳の品質が向上します。
翻訳エンジンの特性: 機械翻訳エンジンには、それぞれ得意とする分野や言語のペアが異なります。
訓練データの量と質: 機械翻訳の精度は、使用される訓練データの量と質に依存します。質の高いデータをどれだけ多く用意できるかが、翻訳精度の向上に繋がります。
現在、高評価を受けている機械翻訳エンジンの多くは、豊富で良質な対訳データを持っていることが成功の一因とされています。
このような観点を考慮し、機械翻訳と人力翻訳を適切に使い分けることが重要です。
人と機械翻訳の協力「ポストエディット」
機械翻訳の限界を踏まえ、現実的な解決策として、人と機械翻訳が協力する方法が注目されています。機械翻訳を単独で使用することも可能ですが、品質にリスクが伴うため、現在ではビジネスにおいて機械翻訳を人間のサポートツールとして利用する手法が一般的になりつつあります。
このアプローチでは、最初に機械翻訳(MT)で翻訳を生成し、その後に人間が編集を行う「機械翻訳ポストエディット(MTPE)」のプロセスが広まっています。MTPEには、「ライト」と「フル」といったレベルがあり、簡易的な確認を行うものから、機械翻訳を参考にしながらも人間が主導で進めるものまで様々です。
例えば、技術文書には「ライト」レベルを、感情を引き出す必要のあるコンテンツには「フル」レベルを使うなど、目的に応じた対応が成功のカギとなります。
機械翻訳エンジンの選び方
現在、さまざまな機関や企業が機械翻訳エンジンを提供しており、選択するエンジンによって結果が大きく異なることがあります。最適なエンジンを選ぶためには、以下の2つのポイントを見て選びましょう。
言語ペア: 原文と訳文の言語の組み合わせによって、同じ翻訳エンジンでも精度が異なることがあります。特定の言語に特化したエンジンもあれば、多くの言語に対応できるエンジンも存在し、それぞれ得意とする言語ペアは異なります。
対象分野: 医療、技術、法律、ビジネス、エンターテインメントなど、分野によって翻訳エンジンが得意とする内容が異なります。それぞれの分野に適したエンジンを選びましょう。
翻訳会社FUKUDAIの翻訳では、人力翻訳をベースとしていますが、お急ぎの案件やコストダウンなどお客様のご希望に応じて、ケース・バイ・ケースで機械翻訳を使用することがあります。
しかし、機械翻訳後にプロの翻訳者が翻訳文を見直す工程が必ず入ります。一般的な翻訳サービスと比較して、早くて安く、自然で的確な翻訳の品質をご提供できるのです。
企業サイトの機械翻訳がNGな理由
ビジネスやサービスをグローバルに展開する企業のサイトの多言語化は、今や欠かせなくなっています。そのための翻訳で人力翻訳を利用すると、当然機械翻訳より費用が高くなってしまいます。
だからといってクオリティに問題がある機械翻訳では、複雑な文章において誤訳が生まれる恐れがあります。企業のサイトでそのようなことが起こると、企業としての信頼性に関わるリスクもあります。
高い精度を求めるのであれば、当然機械翻訳よりも人力翻訳の方が優れています。日本語の独特なニュアンスや表現を伝えることは、人力翻訳でなければ難しいでしょう。
結論としては、ビジネスに関する実用レベルの翻訳文章を求めるなら、機械翻訳よりも人力翻訳をおすすめします。
社内に翻訳ができる人材がいない場合は、プロフェッショナルである翻訳会社の利用を検討しましょう。
翻訳に関するご相談は人力翻訳を基本とする翻訳会社FUKUDAIへ!
ここまで見てきたように、精度が向上したとされる機械翻訳でも不完全な部分が多いのです。完成度の高い翻訳が必要なビジネスユースには、支障のない範囲で上手に機械翻訳を利用しつつも、要所で人力翻訳を利用するのがおすすめです。
翻訳会社FUKUDAIは英語翻訳・中国語翻訳をはじめ、韓国語・タイ語・ベトナム語など東南アジアや欧州の言語の翻訳を承っています。機械翻訳のメリットを最大限に生かしながら、人力翻訳を積極的に推進しています。
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監修者
翻訳会社FUKUDAI 代表取締役
鈴木 宏基