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2024.09.24

技術翻訳の現場:依頼者と翻訳者が求めるもの

技術翻訳

技術翻訳は、依頼者と翻訳者の間で求められる要件が多岐にわたる複雑なプロセスです。依頼者は技術的な背景知識と専門用語の正確さを求め、翻訳者はこれに応えるために高度な語学力と技術的な知識を駆使します。

本記事では、技術翻訳の歴史とその重要性、依頼者が技術翻訳に期待すること、技術翻訳者の背景とスキル、専門用語の扱い方、そして依頼者と翻訳者の効果的なコミュニケーションについて詳しく解説します。

技術翻訳の歴史と重要性

杉田玄白らが1771年から1774年にかけて「ターヘル・アナトミア」をオランダ語から日本語に翻訳して以来、科学書や技術書の翻訳は、日本の近代化のために海外の知識を得る重要な作業でした。現在でも多くの人が海外の情報を日本語に訳して利用したいと考えています。

一方で、日本の研究者や企業が開発した技術を海外に紹介することも求められています。その際、自らが外国語に堪能でない場合、翻訳を他者に依頼することが一般的です。この作業は技術翻訳を専門とする翻訳者が引き受けるのですが、内容の専門性が高いほど、実際に翻訳する人は、科学技術全般の知識があっても、その特定の分野のエキスパートでない可能性があります。このズレが翻訳の「期待はずれ」を引き起こす場合があります。

依頼者が技術翻訳に期待すること

依頼者が技術翻訳に期待することは、主に以下2点となります。

  • 日本の技術を海外に発信する
  • 理想の技術翻訳者

それぞれについて詳しく説明していきます。

日本の技術を海外に発信する

翻訳を依頼する人は、何を期待して他者に作業を託すのでしょうか。日本では科学技術の専門家は必ずしも語学に堪能なわけではありません。ここで日本の英語教育を批判するよりも、日本人は語学が苦手であるという事実を受け入れ、海外に技術を発信したい場合、技術翻訳の専門家に依頼します。

理想の技術翻訳者

依頼者は、翻訳者が専門用語をすべて間違いなく訳すことを期待しないでしょう。ただし、その技術の背景となる学問、例えばライフサイエンスであれば生物学や生化学の基礎は知っているだろうと期待します。そして仕上がった文章が読みやすく、外国語話者が読んですぐに理解できるものであることは、技術翻訳でなくても期待することでしょう。語学ができて、科学の基礎があって、良い文章が書ける人が作業してくれることを期待するのです。

技術翻訳者の背景とスキル

技術翻訳者は、単に語学力が優れているだけでは不十分です。ここでは、技術翻訳者の背景とスキルについて説明します。

語学力と専門知識のバランス

技術翻訳者は語学に堪能でも、必ずしも科学技術に詳しいわけではありません。伝統的に翻訳者になる人は文系の人が多いですが、技術翻訳のデマンドが高いのでオン・ザ・ジョブで技術関連を学びます。一応、基礎的な数学、化学、物理、生物などが頭に入っていれば大抵のことは理解できます。数学、化学、物理は時を経てもあまり変わらない学問なので応用できるのですが、生物やライフサイエンスは変化が多く、基本的な説が変わることがあるので勉強は継続しなければなりません。

ITは、100年前には存在しなかった新しい技術なので、これは若い翻訳者が活躍すべき分野でしょう。実務の中でライフサイエンスのバックグラウンドのまったくない人に、医薬品の治験に関する翻訳を依頼することはないと思われますが、世の中は何が起こるか分かりません。大きな翻訳会社で働いていれば、様々なトピックの作業案件がまわってきます。たまたま技術翻訳の専門家が多忙で、専門外の翻訳者がピンチヒッターを引き受けなくてはならないこともあります。

ネイティブチェッカーの役割と課題

それから翻訳者がネイティブ・スピーカーであっても科学の知識がまったくない人がいます。これが困る例として、実際、ネイティブ・チェッカーにnucleolus(核小体)をミススペル判定されてすべてnucleus(核)に書き換えられてしまったことがあります。私は当時まだ若く、まさか世の中にnucleolusを知らない人がいるとは思いもしませんでした。日本はなんやかんや言っても教育水準が高く、科学教育がごっそり抜け落ちた人に出会うことはほとんどありません。とにかく海外の教育の多様性を思い知りました。

技術翻訳における専門用語の扱い方

技術翻訳

技術翻訳において、専門用語の正確な扱いは非常に重要です。ここでは、専門用語の扱い方について詳しく説明します。

専門用語のリサーチ方法

技術翻訳者がどういう作業をするか考えます。まず専門用語を調べることです。私が人に仕事を聞かれて「技術翻訳をしています」と答えると、即座に「専門用語は難しいでしょう」と言われるのですが、辞書とインターネットでたいていのものを調べることができます。インターネットが存在しない時代から翻訳をやっている老筆者は、大きな書店に出向いて技術書を立ち読みしたり、大学の図書館に潜りこんで調べ物をしたりしていたので、その頃から比べると非常に便利になりました。科学の進歩を体感しています。

そして実際に難しいのは用語を調べることではなく、適切な用語を選んで当てはめることです。最も頭を痛めるのはジャーゴンで、これは実際に現場を知らないと分からないことが多いのです。そのジャーゴンを理解しようとかなり時間を割いてリサーチすることもあります。

技術翻訳者の考え方

依頼者は、すべての専門用語が合っていることを期待しないかもしれませんが、翻訳者の方は専門用語を生真面目にリサーチして、妙な用語を当ててしまうことがあります。依頼者の方は、変な訳をつけられるより英語のままにしておいてもらった方が良いのですが、翻訳者の心理としては、英語にしたままだと「手抜きをした」と思われるので、何とか用語を当てはめようとするのです。

技術翻訳の課題

ライフサイエンス関係の技術翻訳で、protocolと言う言葉を「実験手順」とするのか「治験実施計画書」とするのかは重要事項です。化学合成の論文で、治験のことまで言及することは少ないのですが「なきにしもあらず」です。普段ライフサイエンスの翻訳をあまりしない人がたまたまその翻訳を担当することになり、このprotocolの訳し方を間違えると大問題になってしまいます。

用語集の提供のメリット

この場合、依頼者が専門用語集を提供すると作業が潤滑に進みます。理想を言えば、この用語集にはジャーゴンも入れると助かります。化学の場合「protocolは実験手順または実験条件と訳せ」とあれば、科学技術系の文章を調べて真っ先に出てくる「治験実施計画書」を選ばないでしょう。そして「分からなければ原語のままにせよ」と明確に指示をしていただければ、翻訳者も「無理やり翻訳」をしなくて済みます。このコミュニケーションができるのかできないかで、翻訳作業の流れの良さや訳文の仕上がりがかなり異なります。

依頼者と翻訳者の効果的なコミュニケーション

翻訳の出来は、特に専門性の高い技術翻訳の場合、依頼者と翻訳者の間のコミュニケーションができるかできないかで左右されます。依頼する方は翻訳者に完全な専門性を期待していなくとも、基本的な知識を持っていることを期待し、読みやすい文章を求めます。翻訳する方は、技術翻訳という看板を背負っているのだから辞書やサーチを駆使してすべてを訳そうとします。ここでギャップを埋めるのは専門用語集です。

依頼者は、科学に疎い人が翻訳することになるかもしれないということを頭の隅に入れてジャーゴンまで入れた用語集を作成すると有効です。翻訳者の方は、知らない用語や事柄があれば、素直に「この部分が分かりません」と言った方が身のためです。ここで「こんなことも知らないの!」と言わずに、「ははあ、最近の翻訳者はこういうことが分からないのか」とメモを取っておくと良いでしょう。

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著者

英語翻訳者

S.Kusaka

幼少期から英語と日本語のバイリンガル教育を受け、アメリカの州立大学大学院を卒業。大手広告代理店や国立研究機関での豊富な翻訳経験を活かし、30年以上にわたり、日英・英日翻訳、校正・校閲の分野で活躍。

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